王宿川事件が投げかけた問いと、相続犯罪の本当の姿
2021年6月に発生した王宿川事件は、兄弟間で起きた極端な相続関連犯罪でした。両親の相続財産をめぐる紛争が一審で殺人罪と遺棄致死で争われ、最終的に遺棄致死・薬物犯罪などが有罪と認められて10年が確定しました。事件は社会全体に大きな衝撃を与えましたが、弁護士としてより頻繁に向き合う相続犯罪は、殺人にまで至らない「現代化された形」のものです。本稿は、ご両親の財産を保護するための代表的な二つの制度、すなわち遺言代用信託と成年後見を、どの時点でどちらに活用されるのが通常有用かを比較する形で整理した記事です。
現代の相続犯罪のよくあるパターン
今日の相続関連の家族内犯罪は、通常次のような形で現れます。
- ご両親がご高齢で精神状態が弱まった時期に、一人の兄弟姉妹が「介護」を名目として印鑑・印鑑証明書を用いてご両親の財産を本人または本人の配偶者・子へ贈与
- ご両親のキャッシュカード・通帳から現金を引き出す
- ご両親のインターネットバンキング・公認認証書を「管理して差し上げる」名目で自身または本人の家族名義に振り替える
- 遺言書の偽造
これらの犯罪に共通するのは、ご両親が生存中にはほとんど発見されないという点です。発見の時点は通常、相続開始の後であり、その時点では主たる被害者である故人の陳述を得ることができません。
ご両親の死後に捜査・訴訟が難しくなる構造的理由
ご両親の死後に私文書偽造・公正証書原本不実記載などで告訴を進めても、捜査結果が満足のいくものにならない事件は通常少なくありません。理由は次のように整理できます。
| 段階 | 難しさ |
|---|---|
| 事実関係の確認 | ご両親の陳述がなく同意の有無の判断が困難 |
| 意思能力の判断 | 認知症初期・中期段階の意思能力をめぐる争い |
| 証拠の確保 | 印鑑・通帳使用時点の客観的資料の不足 |
| 家族の陳述 | 加害が疑われる側が「ご両親が真に望まれた」と一貫して主張 |
私は実際に、故人がお亡くなりになる3日前に不動産が贈与されていた事案を扱ったことがあります。意思能力が明らかに疑われる情況でしたが、捜査機関は「故人が真に贈与された可能性もある」との判断で、容易には処分が下されませんでした。
死後の捜査は、事実関係の曖昧さが最大の敵となります。生前に整えておかなかった事柄は、亡くなられた後に整えてあげることが難しいのです。
二つの事前保護制度 — 似て非なるもの
ご両親がご存命のうちに活用可能な代表的な制度は、遺言代用信託と成年後見の二つです。両制度は似て見えますが、活用時点・役割・効果が明確に異なります。
遺言代用信託
ご両親が精神的・身体的にご健康な時期に、ご自身の財産を信託に委ね、死後の分配方法をあらかじめ定めておく制度です。ご両親ご自身の意思に基づいて事前設計されるため、死後の相続紛争の余地が通常大幅に小さくなります。
成年後見
ご両親の健康状態が悪化し、意思能力が揺らぎ始めた時点で、裁判所の決定により後見人を選任し、ご両親の財産を保護する制度です。後見人選任後は、ご両親の財産処分に後見人の同意・裁判所の許可が必要となるため、一人の兄弟姉妹による恣意的処分の可能性が通常大きく遮断されます。
どの時点でどの制度を選ぶか
同じご家族でも、時点により推奨される制度は異なります。通常の流れは次のように整理できます。
| 時点 | 優先検討制度 | 理由 |
|---|---|---|
| ご両親が精神的・身体的に健康な時点 | 遺言代用信託 | ご本人の意思で事前設計が可能 |
| 認知症初期の兆候が現れる時点 | 成年後見の積極的検討 | 意思能力をめぐる争いを遮断し処分を阻止 |
| 認知症中期以降 | 成年後見の即時検討 | 処分行為に対する事後の争いが困難 |
| 兄弟姉妹の一人がご両親の財産への接触を増やし始める時点 | 成年後見の即時検討 | 恣意的処分の遮断の即時性 |
ここで強調しておきたいのは、韓国の裁判所の通常の態度として、医学的に認知症中期以降の行為について意思能力を強く疑う傾向があるという点です。認知症初期から中期にかけての行為については、意思能力を認める流れが通常多くなります。そのため、ご家族が「初期の兆候」を認識された時点こそが、成年後見の検討時点であるべきと整理しています。
二制度を併用する流れもあります
ご両親が精神的にご健康な時点で遺言代用信託により死後の分配を事前設計しておき、その後健康状態が悪化する時点で成年後見を併用する流れが通常よく見られます。両制度は相反しません。信託が死後分配の柱を担い、成年後見が生前処分の保護膜を担います。
同じご家族でも、時点により必要な制度は異なります。一つの制度ですべての時点をカバーできるわけではありません。
「兄弟姉妹の一人が後見人になったらどうするのか」という不安
相談室で最もよくいただく不安があります。本人が後見人になれば安心だが、関係の良くない別の兄弟姉妹が後見人になる場合、ご両親の財産がかえって危うくなるのではないかというご質問です。通常は次のように整理しています。
- 後見人選任手続では家族構成員の意見聴取が行われるため、ご懸念のある兄弟姉妹の情況をあらかじめ整理して提出できます。
- 後見人の処分行為については裁判所の許可・監督手続が適用されます。
- 後見人の義務違反が確認された場合、後見人の解任・変更が可能です。
誰が後見人になるかそれ自体よりも、後見手続に入った時点からご両親の財産が「裁判所の視野の中」に入るという点が、より大きな保護効果を持ちます。
一人称で整理した一つの原則
私は相談室で同じ一文を繰り返してお伝えしています。「ご両親がご健康なうちに整えておかれなかったことは、亡くなられた後に整えてあげることが難しいのです」。ご存命のうちの1時間が、死後1年の捜査・訴訟よりも大きな保護効果を持つことが通常少なくありません。
いま点検しておきたい項目
- ご両親名義の資産の現状の明細を家族単位で整理しておく
- ご両親が普段保管されている印鑑・通帳・OTP・公認認証書の保管場所の確認
- ご両親の意思能力の変化を日常的に観察する
- 兄弟姉妹の中でご両親の財産接触頻度が高い人がいないか点検する
- ご両親が普段ご自身の意思で表現された財産分配の方向を書き留めておく
これらの項目を整理してお持ちいただくと、信託・後見のどちらがご家族にとってより緊急なのかが通常見えてきます。今すぐチャットで相談するから、ご家族の状況に合った時点から点検していただけます。
よくいただくご質問
Q. 親が「認知症初期」と診断されました。成年後見をすぐに進めるべきでしょうか? A. 通常は初期段階で積極的に検討しておく流れをおすすめしています。認知症初期〜中期の処分行為について事後の争いが難しくなる傾向があるためです。事案ごとに意思能力評価・家族意見聴取などの手続が併せて進行します。
Q. 遺言代用信託は親が健康でなければできないのでしょうか? A. 遺言代用信託は親ご本人の意思能力が明確な時点に設計するのが安全です。意思能力に疑問が生じた段階以降に設計された信託は、死後の効力争いの余地が通常拡大する傾向があります。
Q. 親が「後見人なんて受けたくない」と拒否したらどうしますか? A. ご本人の意思が明確な場合、まず遺言代用信託・生前贈与の設計などご本人意思ベースの制度を先に検討する流れが通常です。意思能力が揺らぐ段階では、ご家族の請求により後見手続を開始する道も開かれています。
ご両親がどのような状態で、どの制度が最も適しているかから整理されたい場合は、今すぐチャットで相談するからお申し込みいただけます。
本稿は法務法人ジョンジェ(存在)の弁護士による上記YouTube解説をもとに作成された一般法律情報の記事です。
最終検討日:2026-05-30
免責:本稿は一般的な法律情報を提供することを目的としており、個別事件の具体的事実関係に対する法律相談ではありません。類似の事案でも結果は事実関係と証拠により異なり得るため、実際の紛争や相談が必要な方は必ず専門の弁護士による個別の助言をお受けください。



