最も身近な人が最も危険になり得る理由 — 詐欺師が押さえる本当の担保
初回公開 2026-05-30 / 最終確認 2026-05-30 本記事は法務法人ジョンジェのノ・ジョンオン代表弁護士の上記YouTube解説をもとに作成された一般法律情報です。
私は刑事事件を担当する中で、最もよく出会うパターンの一つが、「どうしてこの人がこんなことをするのか」という被害者の一言だと、毎回改めて確認します。映画やドラマで詐欺師が無様に逃げ回る姿で描かれるのとは違い、現実の詐欺師は逃げ場を非常に綿密に事前に用意しておきます。本記事は、詐欺師がどのように「担保」を確保するのか、なぜ最も身近な人が最も危険になり得るのか、そしてどのようなサインを事前に見抜けば良いのかを整理します。
詐欺師はただ詐欺を働くわけではありません
銀行が不動産担保ローンを実行するとき、回収不能の事態に備えて不動産に根抵当権などの担保を設定します。詐欺師も同じです。詐欺が発覚した場合に備えて、回収不能のリスクを事前に必ず備えています。
これが映画やドラマと最も異なる部分です。映画の中の詐欺師は正義を前にして卑屈になり、命乞いをしますが、それは興行のための装置であり、私たちの願いが投影された結果に過ぎません。現実において大きな詐欺を働く人は、ほとんどの場合その場で逃げません。すでに自分の逃げ道を用意してあるからです。
映画やドラマの詐欺師像を現実の基準として持ち込まれると、大きな痛手を負われる可能性があります。現実の詐欺師は、詐欺以前の段階ですでに逃げ場を用意します。
詐欺師が押さえる本当の担保は被害者の弱みです
詐欺師が押さえる担保は不動産ではなく、被害者の弱みです。その弱みが何かによって詐欺の形と回収の可能性が変わります。
詐欺の初期段階で、詐欺師は被害者が痛みを感じる部分、欲望、孤独、認められたい気持ちなどを非常に上手くケアします。この段階で被害者は詐欺師を強く信頼するようになり、他人には話さない秘密や個人的な恥部まで打ち明けてしまいます。
この秘密や恥部こそが詐欺師の狙った担保です。詐欺が発覚しても被害者が刑事告訴に踏み切れないようにする安全装置です。
芸能界と政界の事例 — 側近の不正が明るみに出にくい理由
この構造は、芸能界のマネージャー、政治家の補佐官、事業家の側近の不正において繰り返し観察されます。
トップクラスの芸能人のマネージャーは通常、その芸能人のスケジュール、金銭取引、対人関係だけでなく私生活まで全て管理します。長期間その立場にいると、通話録音、メッセージ記録、映像資料を持つことが多くなります。それらが外部に公開されれば、当該芸能人は職業的に大きな打撃を受け得ます。
同じ構造が政界でも現れます。補佐官や側近は、政治家の非公式活動や内部取引を最もよく知る人物です。横領や不正事件が発生しても、側近が知っている情報が外部に流れ出た瞬間、政治生命そのものが終わり得ます。
そのため、側近の横領事実が認識されても、刑事告訴にまで至るケースは多くありません。通常「ここでやめろ」という程度の整理にとどまり、その後も関係が断たれない事例が少なくありません。
弱みを握られた被害者が沈黙させられていく流れ
私は相談室でこの構造を次の段階に整理してご説明します。
- 信頼獲得の段階: 詐欺師は被害者の欲望、孤独、承認欲求をケアします。本気で気にかけてくれる人のように見えます。
- 弱み収集の段階: 被害者が心を開いて打ち明ける秘密、私生活、家族関係、過去の過ちを整理し記録します。
- 金銭取引の段階: 信頼関係をもとに投資、貸付、共同事業などの金銭取引が始まります。最初は通常の取引の外形を備えています。
- 発覚後の交渉段階: 詐欺が発覚し被害者が刑事告訴を検討すると、詐欺師は保有する弱みを直接的・間接的に匂わせ、被害者の行動を制約します。
- 沈黙の段階: 被害者は弱みが公開されることを恐れて告訴を断念したり、一部回収のみで事件を終結させたりします。
この流れのどの段階で断ち切るかが、被害回収の可能性を決めます。最も安全な地点は弱みが集められる前です。
大きな金額を失う詐欺ほど、近い人がつくった詐欺です
少額の詐欺は知らない人にも頻繁にやられます。しかし人生を変えるほどの大きな詐欺は通常、最も身近な人との関係の中で発生します。理由は明確です。大金を預けるに足る信頼が築かれるには一定の時間と親密さが必要であり、その親密さの中で弱みが同時に共有されるからです。
相談室で見ていると、次のサインが同時に観察される場合が多くなります。
- ご本人の私生活、過去の過ち、家族の秘密まで既に共有されている関係です。
- 一緒に仕事をしようという提案、投資を勧める提案、共同事業の提案が続きます。
- 取引の外形は通常ですが、借用書・契約書が家族的な雰囲気の中で形式的に作成されるだけにとどまります。
- 取引後、詐欺師が被害者の弱みを直接的に言及しなくても、その弱みが外部に知られ得るという事実を双方とも分かっている構図ができます。
最も親しい人だからといって最も安全な取引相手になるわけではありません。親密さと安全性は別の軸です。
詐欺被害を事前に減らすための行動原則
私は相談室で、次の四つの原則をよく申し上げます。
- 親密さと取引は分けてください。 親しい人と一緒に事業をされたり投資をされたりする場合でも、取引の形式と書類は他人と同様に整えるのが安全です。
- 弱みが共有された関係での金銭取引はより保守的にご判断ください。 事後の回収可能性は通常の取引より落ちます。
- 取引の外形を客観資料として残してください。 口座振込、借用書、弁済期、利息、使途などが客観的に整理されていなければ、後の紛争で回収が困難になります。
- 異変のサインが感じられた瞬間に行動を止めてください。 「変だけれど親しい人だから大丈夫だろう」という自己安心が、最も大きな損失につながります。
よくあるご質問
Q. 弱みを握られた状態で詐欺被害が発生しましたが、告訴は可能ですか? A. 可能です。ただし、詐欺師が被害者の弱みを刑事告訴の過程で逆に利用する可能性があるため、弁護人と事前に対応シナリオを設計しておくのが安全です。
Q. 詐欺師が弱みをネタに脅迫してきた場合、どうすればよいですか? A. 別途の脅迫・恐喝罪が成立し得ます。メッセージ、通話録音など、脅迫の証拠を可能な限り客観的に確保しておくことが重要です。
Q. すでに私生活を多く共有した相手と事業をすることになりました。今からでも整理する方法はありますか? A. 取引の外形を整え直す方法を優先的に検討できます。契約書の整備、資金の流れの記録整理、取引段階の分離などが、事後の回収可能性を一定水準確保してくれます。
親しい人との取引ほど形式を整えてください
私は刑事事件を担当しながら、最も心が痛む場面が、被害者が詐欺師を憎む気持ちと共に自分を責める姿を見せる瞬間だと毎回確認します。被害を受けたご本人の落ち度ではありません。ただし、詐欺の構造が親密な関係を養分にしているという点は、誰もが知っておくべきです。
ご本人の取引相手との関係を点検してみたければ、短く今すぐチャットで相談するも可能です。
ノ・ジョンオン代表弁護士 / 法務法人ジョンジェ 刑事・家事・相続専門弁護人団 最終確認 2026-05-30
本記事は一般法律情報であり、個別事案の法律相談を代替するものではありません。事案により結果が変わり得ますので、具体的な紛争がある場合は別途ご相談をお勧めします。



